膠原病とは
『膠原病』という概念は1940年代に『体の結合組織をターゲットに炎症が多発する疾患』として命名されました。結合組織とは体のほとんどすべての臓器の主要部分を構成する組織で、コラーゲン≒膠原を主成分とするところから名前がついています。膠原病の原因はいまだ解明されていない部分が多いのも事実ですが、免疫システムのエラーで生じる病気の総称です。本来自分を守ってくれるはずの免疫システムが自分自身の身体を攻撃してしまうことで引き起こされます。コラーゲン≒膠原は身体のあらゆる臓器に存在するため、膠原病では全身様々な臓器や組織に炎症が生じてきます。非常に複雑に絡み合う免疫システムの情報伝達の中のどの部分がエラーを生じるかで、検出される自己抗体も異なれば、障害される臓器にも違いが出てきます。膠原病の中でもっとも頻度の高い関節リウマチでは主に関節を構成する膜、“滑膜”の組織を構成する結合組織が炎症のターゲットとなり、関節炎が引き起こされます。同時に肺の組織も炎症を生じ、間質性肺炎と呼ばれる慢性炎症を合併することが多いのも関節リウマチの特徴ですが、それ以外の臓器が障害を受けることは非常に稀です。一方、全身性エリテマトーデスでは皮膚や関節の炎症に加え、腎臓や胸膜、心膜、腹膜、神経などひろく全身に炎症が生じることも多く、同じ膠原病は膠原病でも、疾患により全く別の顔つきを持っています。
よくある膠原病
- 関節リウマチ(RA)
- リウマチ性多発筋痛症(PMR)
- 乾癬性関節炎(PsA)
- 脊椎関節炎(SpA)
- 全身性エリテマトーデス
- 多発性筋炎/皮膚筋炎(PM/DM)
- 全身性強皮症(SSc)
- 混合性結合組織病(MCTD)
- シェーグレン症候群
- 抗リン脂質抗体症候群(APS)
- 巨細胞性動脈炎
- 高安動脈炎
- 結節性多発動脈炎
- 顕微鏡的多発血管炎(MPA)
- 多発血管炎性肉芽腫症(GPA)
- 好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)
- ベーチェット病
- IgG4関連疾患
- 痛風
- 偽痛風
膠原病の初期症状
膠原病の初期症状として、下記のようなものが見られます。気になる症状がありましたらお気軽にご相談ください。
- なんとなく全身のだるさ(倦怠感)が続いている
- 原因不明の微熱が続く・朝起きたとき(午前中)に関節がこわばる
- 朝起きたとき(午前中)に手足が動かしづらい
- 手足の関節が腫れている
- 手足の関節に痛みがある
- 日光過敏症(太陽光で皮膚が過剰に赤くなる)
- 冷気やストレス刺激で手の先が白色や青色に変化する(レイノー現象)
- 目や口がとても乾く
- 耳の下、顎の下(耳下腺・顎下腺)が腫れて痛い
- 少し動いただけで息が切れる
- 慢性的に乾いた咳が続く
- 説明のつかない手荒れや指の湿疹がつづいている。(メカニックハンド)
- 皮膚が硬くなった(手や顔が引きつる、病的にむくむ)
- 口内炎が良くできる
- 外陰部や肛門周りの潰瘍(痛み)
- 頭皮や耳の皮膚の荒れが治らない
など
膠原病の原因
膠原病の原因は完全には解明されていませんが、複数の要因が複雑に関与して発症すると考えられています。主な原因として、遺伝的要因と環境的要因が挙げられます。
遺伝的要因として、膠原病の家族歴がある場合、その発症リスクがやや高まることが知られています。特定の遺伝子が免疫システムの異常を引き起こし、自己免疫反応を引き起こしやすくなると考えられており、徐々に病因遺伝子の解明・特定も進んでいます。しかし、遺伝子の異常のみで発症するわけではなく、遺伝的素因を持っていても膠原病を発症しない人も多くいます。
環境的要因としては、なんらかの感染症、ホルモンの変化、および組織の損傷(たとえば日焼け=紫外線による皮膚組織の損傷など)、悪性腫瘍に代表される新生物、などが挙げられます。ウイルスや細菌感染、腫瘍に対する免疫反応が活性化する延長上に過剰な自己免疫反応を引き起こすエラーが生じている可能性があります。また、全身性エリテマトーデスや関節リウマチなど、圧倒的に女性に発症しやすい膠原病疾患では、ホルモンバランスの変化、特にエストロゲンの関与も示唆されています。初潮を迎えたあと、妊娠や出産、閉経期など女性ホルモンがダイナミックに変化する時期と一致して病勢が変化することがしばしばあります。また、紫外線による皮膚組織の損傷や肺気腫や間質性肺炎に伴う肺組織の損傷など、組織の損傷に対する免疫反応でも膠原病を発症、あるいは増悪させるケースが知られています。
膠原病と間違えられる病気
膠原病は症状の類似性から下記のような病気と間違えられることがあります。
慢性疲労症候群
疲労感や筋肉痛、関節痛といった症状が慢性的に続くため、膠原病と間違えられることがあります。大変申し訳ございませんが、当院では慢性疲労症候群の診断・治療はできません。
線維筋痛症
全身の強い痛みが続くこと、疲労感が続くことで睡眠障害、生活の質の低下が認められる疾患です。原因が解明されておらず、膠原病で使用される免疫抑制剤はほとんど効果がありません。脳・神経の疼痛閾値の異常など、精神・神経に原因がある可能性も高く、抗うつ薬や抗痙攣薬、鎮痛薬などを組み合わせて治療をしていくこと多い疾患です。
大変申し訳ございませんが、当院では線維筋痛症の診断・治療はできません。
膠原病の合併症について
腎疾患(ループス腎炎・血管炎に伴う糸球体腎炎など)
膠原病において、腎障害は特に重大な合併症の一つです。代表的なものに全身性エリテマトーデス(SLE)の一症状として現れるループス腎炎、IgA血管炎やANCA関連血管炎に伴う糸球体腎炎などがあります。自己免疫反応により腎臓の糸球体およびその周囲に炎症や血管狭窄が生じ、尿タンパクの増加や浮腫、血圧上昇などが見られ、最終的には腎不全に進行することもあります。また、強皮症やシェーグレン症候群においても腎臓への影響が報告されており、血圧管理や腎機能の定期的な評価が必要です。腎疾患は無症状で進行することがあるため、早期発見と早期治療がその後の腎予後に大きく影響します。
また、膠原病治療で使用する免疫抑制剤や鎮痛剤の中にも、副作用として腎障害を引き起こすものもあり、注意が必要です。
心疾患(心膜炎・心筋炎・心不全)
膠原病の一部の疾患では、心臓、心膜(心臓を包む膜)にも合併症が現れることがあり、心膜炎や心筋炎、さらには心不全が発症するリスクがあります。特に全身性エリテマトーデスや強皮症、混合性結合組織病において、心膜の炎症が高頻度で認められます。心膜炎では胸痛や呼吸困難、動悸などを自覚し、発熱を伴うのが一般的です。ANCA関連血管炎でも心筋炎を合併することがあり、その場合、一段階強い治療を必要とします。慢性炎症が持続すると、全身の動脈硬化も進行しやすく、心筋梗塞などの冠動脈疾患のリスクも高まります。膠原病の早期診断と合わせて、心臓合併症の有無の確認、治療後も定期的な心臓機能評価が大切です。
肺疾患(間質性肺炎)
肺は異物(ウイルスやゴミなど)と接触する機会の多いため、免疫システムのエラーが生じやすい臓器のひとつです。多くの膠原病疾患で、間質性肺疾患を合併します。特に関節リウマチでも20~40%程度と高率に間質性肺炎や気管支病変を合併するとされています。ほかにも強皮症や多発性筋炎・皮膚筋炎、混合性結合組織病なども高率に間質性肺炎を合併します。膠原病に合併する多くの間質性肺炎は比較的緩徐に進行しますが、皮膚筋炎など一部の疾患では急速に進行する間質性肺炎を合併し、短期間で呼吸不全に陥り、命を落とすことも少なくありません。また、間質性肺炎がある場合、肺の感染症の発症リスク、また重症化リスクも高まります。慢性的に続く息切れや乾いた咳に注視するとともに、定期的に肺のレントゲン検査も大切です。
消化器疾患(逆流性食道炎・便秘・腸閉塞)
膠原病における一部の疾患は消化器系へも影響します。強皮症では、食道の運動障害から逆流性食道炎が高頻度に合併し、胸やけやげっぷ、腹痛、食欲低下を招きます。進行すると腸全体の蠕動運動障害、吸収障害も出現し、病的体重減少、低栄養につながることもあります。
ベーチェット病でも腸粘膜に潰瘍性病変がつくられるケースがあり、腹痛に加え、慢性的な下痢、ときに血便を伴うこともあります。消化管も肺と同様、常に異物と接する機会の多い臓器のため、上に挙げた疾患以外にも、全身性エリテマトーデスや血管炎など多くの膠原病疾患で消化器症状を合併します。
神経疾患
比較的稀ですが、一部の膠原病疾患では神経系にも影響を与えることがあります。血管炎では手足のしびれや脱力、視力低下(視神経炎)など末梢神経障害が初発症状になることもあります。一度障害された神経細胞は再生速度が非常に遅く、生涯にわたり、しびれや脱力の後遺症が残ってしまうことがあります。血管炎で急性に進行する神経障害がみられた場合、重症病態として、一段階強い治療を要します。頻度は低いものの、全身性エリテマトーデスや混合性結合組織病、ベーチェット病などでも髄膜炎や中枢神経障害(脳や脊髄の障害)、末梢神経障害など様々な神経障害を合併することがあり、早期発見と適切な治療が重症化を防ぐために重要です。
膠原病の検査
膠原病が疑われる際には、まず十分な問診と身体診察を実施して、膠原病特有の身体的な異常と経過を確認します。たいていのケースがこの段階で、大まかに診断が絞られます。その後、免疫異常や炎症の程度を測定する検査として血液検査や尿検査、レントゲンや超音波検査などの画像診断を行っていきます。これらの検査結果を総合的に評価し、国際的な診断基準や分類基準に基づいて最終的な診断を行います。採血における免疫の検査などは結果が出るまで1週間程度の日数を要することが多く、確定診断までには2~3週間と、時間がかかることがほとんどです。この検査にかかる時間は大学病院などの総合病院でもクリニックでも同様です。数回の受診でご足労をおかけしますが、まずは初期の診断をしっかり評価することが、慢性疾患と付き合う上でまず大切なことになります。
詳しくは「膠原病・リウマチの検査」ページをご覧ください。
膠原病の治療
膠原病は免疫系の異常によって引き起こされる炎症であるため、免疫異常や炎症を同時に抑える必要があります。治療に用いる薬には、免疫抑制作用と抗炎症作用を兼ね備えたステロイドや、免疫反応を抑える各種免疫抑制剤が含まれます。ただし、ステロイドは長期間の使用によりさまざまな副作用を引き起こす可能性があるため、可能な限り使用を減らし、中止する方向での治療が推奨されています。
現在では、定期的に診察を受け、適切な治療を行うことで日常生活に支障をきたさない程度に病状を管理することが可能です。薬の副作用に対する懸念が大きくなりがちですが、膠原病の治療には免疫抑制剤、ときにステロイドの使用が欠かせません。副作用を過度に恐れて自己判断で薬を中止すると、症状が悪化し重症化することがあります。ステロイドを長期に内服している方の急な内服中断はステロイド離脱症状(正確には副腎不全といい、過度な血圧低下、意識障害、低血糖発作、食欲低下、発熱などの症状を引き起こす)を生じる可能性があるため、主治医の指示で、徐々にゆっくり減量する“漸減療法”が基本です。それぞれの疾患に対する治療に関して、気になることがありましたら医師までご相談ください。
膠原病の治療で使用する薬に関しては、「膠原病・リウマチの治療薬」ページをご覧ください。
膠原病の再発について
一般的に病気が完全に治る状態を「治癒」と呼びますが、症状や検査結果が正常でも完全な治癒と呼べない状態を「寛解」と言います。インフルエンザや骨折は「治癒」と表現できますが、関節リウマチや膠原病では症状がなくなっても病気の根本的な原因が体内から完全に消失したわけではないため「治癒」とは言えません。症状が消えたからといって自己判断で治療を中断すると、病気が再発する可能性があります。
最近では効果的な治療薬が増え、長期的に寛解を維持し、治療薬の中止後に「治癒」のように感じられることもありますが、長い時間が経過すると再燃のリスクがあります。再燃が繰り返されると、関節や肺、腎臓などダメージが蓄積し、深刻な状態になることがあります。
再燃を防ぐためには、定期的に医師の診察を受け、指示に従って薬を規則正しく服用することが重要です。
膠原病で利用できる制度について
膠原病により長期療養が必要になった場合、下記のような社会的制度が利用できることもあります。
介護保険制度
介護保険制度は、65歳以上の第1号被保険者と、特定の疾患を持つ40歳から64歳までの第2号被保険者を対象としています。関節リウマチはこの特定疾患に含まれているため、40歳以上の関節リウマチ患者様も介護保険制度の利用が可能です。介護度によって、介護用品やサービスの利用範囲や頻度が異なるため、詳しくは厚生労働省の介護保険制度の概要をご確認ください。
高額療養費制度
高額療養費制度は、同一月内の医療費の自己負担額が一定の限度額を超えた場合に、その超過分が払い戻される制度です。自己負担限度額は年齢や所得によって異なります。医療費が高額になることが予測される場合、限度額適用認定証を申請することで、窓口での支払いを軽減できます。詳細は厚生労働省の該当ページをご確認ください。
生活保護制度・生活困窮者自立支援制度
生活保護制度は、生活に困窮している方に対し、困窮の程度に応じた保護を行い、健康で文化的な最低限度の生活を保障する制度です。一方、生活困窮者自立支援制度は、生活保護の受給に至らないよう、自立を促進する支援を行います。詳しくは厚生労働省のページでご確認ください。生活保護を受けられている方は原則、生活保護法に基づいて指定された医療機関を受診する際に医療費の給付を受けられるようになっています。
※当院は自治体による指定医療機関ではないため、原則受診いただけません。(指定医療機関以外でも受診することは可能ですが、原則として医療費の自己負担が発生します)
膠原病のよくある質問
膠原病のよくある質問に関しては、「膠原病・リウマチのよくある質問」ページに記載しています。気になることがございましたら「膠原病・リウマチのよくある質問」ページをご覧ください。